恋愛の始め方
「手続きも無事に終わって、日本で過ごす最後の夜に。うちに急患として来たのが、今裁判で争ってる患者」


あの夜のことを、あたしは生涯忘れることなんて出来ないだろう。

あたしのお父さんは、町で唯一の診療所をしていた。

医師はお父さん1人で、他に看護師が4人、事務員2人の小さな診療所。

あたしが住んでいた町は、大きな病院まで2時間半も掛かる。

だからか、町の診療所は患者で賑わっていた。

それも、あの日の夜までの話だ。

とっくに診察時間も終わり、日付が変わろとしていた時。

慌ただしく、診療所のドアが叩かれた。


「すいません!すいません!」


そんな声が聞こえてきた。

その声を聞きつけたお父さんが、診療所のドアを開けたのだろう。

静かだった診療所が、慌ただしくなった。

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