恋愛の始め方
業務的に人の生死に関わり、人を人だと思わず、処置をする。

言い方は悪いが、そう思わなければ、人の体にメスを入ることなんて出来ない。

でも、お父さんは違った。

人の死に、寄り添い過ぎたんだ。

処置室を出て、家族の元に向かう。


「すいませんでした」


そう、深々とお父さんは頭を下げた。

女の子のお母さんは、泣き出し、お父さんに詰め寄った。


「大丈夫だって言ったじゃない!!」


叫びにも似た、その言葉が診療所に響き渡る。


「返して!あの子のこと、返してよ!!」


自分の大切な家族が死んだ。

それは、どれだけ苦しいことなのだろう。

そんな経験をしたことのないあたしには、お父さんに詰め寄る家族の気持ちを、全てを理解することは出来ない。

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