恋愛の始め方
その言葉は、正直嬉しかった。


「考えとく」

「素直じゃねぇな」


楽しそうな、嬉れしそうな顔で笑った。

その後、お父さんは休むことなく往診に出かけた。

そしてあたしも、また海外へと戻った。

海外に戻り、あたしはお父さんに言われた通り、自分の腕を必死に磨いた。

最後にお父さんと会った日から、1年と半年がたった頃。

お父さんが死んだ。

誰に看取られることなく、1人診療所で死んでいた。

3年は帰らないと決めていたのに、お父さんが死んだ以上そんなことも言っていられない。

そして、再びあたしは日本に帰国した。

その時、初めて知った。

あの女の子の遺族から、訴えられていたこと。

その噂が広まり、診療所に人が寄り付かなくなっていたこと。

そして、お父さんが癌だったことも。

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