どん底女と救世主。



「いまいち伝わってないみたいだな」

「いや、だってそんな急にっ…!」

「お前に会いたくて戻って来たって言ったら信じるか?」


ーーへ?


「えっ?!ただの人事でしょ?!」


思わず部屋に響き渡るくらいに大きな声を上げてしまった。

だって、あの課長があの深山主任がそんなこと言い出すなんて。

私に会いたくて帰ってきたの?いや、ありえないでしょ、そんなこと!

冗談としても課長がこんな甘い言葉吐くなんて…。これ、もしかして変な夢?

なんて、現実逃避をしていると。


相変わらず近い距離に座る課長が、ふっ、と不敵な笑みを浮かべた。


ーーどきり。


その妙に色気溢れる表情に、心臓が鷲掴みにされるような痛みをあげた。

きっと、顔が真っ赤になってしまっただろう私を見ながら、まるでオタオタとする私を楽しむような意地悪な表情で足を組み替えた課長。


分からない。一体どこまでが本気なんだろう。

今までそんなそぶりなんて一切見せなかったのに、いきなりこんなこと言い出すなんて…。


順調にいっていると思っていた同居生活が一日にして一変した。


お互い越えようともしてなかったはずの、見えないライン。

それを課長はいとも簡単に踏み越えて、傷心中の私のハートを混乱の渦へと落としてしまった。




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