どん底女と救世主。
「こ、困まります。そんな冗談っ…!」
混乱しきった頭の中から、ようやく出た言葉は店内の喧騒でかき消されていく。
課長の言葉に完全に翻弄されてしまった私はもう何も考えられない。頭に響くのは課長のさっきの台詞。
どうしていいか分からなくなったとき、突然、頭上から大きな手が降ってきて、私の髪をぐしゃっとまぜた。
「困っとけ」
目の前には、ふっと微笑を浮かべる課長の顔。
その表情を見た瞬間、心臓がどっと大きな音を立て暴れだした。
頬が、全身が燃えるように熱くなったのは誰のせい?
もうとっくに去ったはずの髪に触れた課長の温もりがいつまでも消えず、私の心を乱していく。
私の耳にはもう、ラーメン屋の喧騒も隣で楽しそうにくくくっと笑う課長の声も何も届かなかった。