どん底女と救世主。
どちらにしろこんな状態では仕事が手につかない。
もう片付けようかな。そしてコーヒーでも飲もう。
ふと壁掛けの時計を見ると12時を回ろうとしているところ。
結局1ミリもはかどらなかった書類を片付け、キッチンへ向かう。
勝とのマンションから持ち出してきたお気に入りのボルドーのケトルに水を張り、火にかける。
ゆらゆらと揺れる火に若干魅入られてしまうのは、なんだか課長っぽいから。
高温の青い炎。冷血そうに見えて、意外に情に厚い暖かい人。
深山課長がそういう人だと気付けたのは、一緒に暮らし始めてから。
言葉は少ないけど何かと気遣ってくれるし、私の左遷話も人事に掛け合ってなかったことにしてくれた。詳しいことは何も話してくれないけど。
仕事の鬼だとか、寡黙でクールなイメージのある課長のそんな一面を知っている人はどれくらい居るだろう。
私、だけ…。だといいな。
ん?あれ、私いま何を思った?
ーーーピィー
いきなりけたたましい音を立て始めたホーローに驚いて何故か咄嗟に手を伸ばしてしまう。
「熱っ…」
ああ、なにやってるんだろう私。