どん底女と救世主。
結婚してもフットワークが軽く面倒見の良い矢部君は、よく飲み会の幹事などをしている。
というより、結婚してから輪をかけて『結婚はいいぞ』と独身社員の恋愛活動を応援しているらしく、絵理からも飲み会に行き過ぎだとお灸を添えられているのに。
まあ、結局はそんな後輩への面倒見の良いところが好きなんだと、直接は言わないけど遠回しにのろけていた絵理を羨ましく思ったり。
矢部君が所属している経理部の男性社員は少ないけど全員総合職で、営業部と並んでエリート揃い。
魅力的な飲み会の誘い、のはずなのに…。頭にある人の顔が浮かんでしまう。
なんで今、課長の顔が浮かぶんだろう。
困惑して口籠っていると、
「決まりな」
と、目の前の矢部君がスマホ片手に、いつだったら都合がいいかとドンドン話しを進めていく。
「ちょっと、待って…」
矢部君を止めようとしたとき、
「へえ、楽しそうな話しをしているな」
後ろから聞き慣れた低い声が聞こえた。