どん底女と救世主。
耳に響くテノールに、びくりと肩を震わせた私はゆっくりと背後を振り返る。
「深山課長…」
さっき頭に浮かべた人物が、なぜだか目の前に立っていた。
しかも私の思い違いじゃなかったら、深山課長は少し不機嫌そう…?
「あの、課長っ!今のはっ…」
「冴島、休憩時間終わるぞ」
自分でもよく分からないうちに、言い訳を口にしていて。
でも、それも課長の冷たく感情のこもらない声によって遮られてしまった。
ーーグイッ
呆然と立ち尽くす私の腕に急に痛みが走り、身体が前にグッと傾いた。
「ちょっ、課長っ…!」
課長が私の右腕を掴み、そのまま歩き出す。
今なにが起きているのか分からない。深山課長がなにを考えているかもちっとも分からない。
遠のいて行く背後で矢部君が困惑しきっているのが伝わってくる。
カフェオレもいまだに自販機の中だ。
でも今は、絡まりそうになる足を必死に動かし課長に着いて行くことしか出来なかった。