どん底女と救世主。
「冴島」
「…はい」
「えらく楽しそうに話してたな」
「え?」
ただでさえ回っていない私の頭では、課長の主語が省かれた言葉を理解できずにいると、課長は『さっきの奴と』と、付け加えた。
「えっ!い、いや矢部君は同期で、親友の旦那さんで!だから、別にそんなのでは…!」
『そんなの』って何?もう自分でもなにを言っているのか分からない。
それに、なんでさっきから私は課長に言い訳じみたことを言っているんだろう。
「行くのか?」
「へ?」
「あいつがさっき言ってた『飲み会』」
飲み会という単語をやけに強調した課長は、それがどういう主旨の飲み会かということを把握しているらしい。
というか、ーー近いっ…!
さっきまで目の前にあったはずの課長の顔はいつの間にか私の顔の横へと来ていて。
課長の口は私の耳元だ。
課長の息が、耳に…。
課長の声が身体に直接響いて、奥の方をジンと刺激する。
全然話が頭に入ってこない。