どん底女と救世主。


「お、かえりなさい…」


コートを脱ぎながら帰ってきた課長に、伺うように言うとただいま、といつもと変わらずにそう返ってきた。


「いい匂いがするな」

「えっ、あ、今日の晩ごはんはおでんです!」

「そうか。楽しみだ」


突然聞かれ、なぜか慌てて大きな声で答えてしまった私に変な顔もせずに課長は身支度を済ませお風呂場へと消えて行く。


いつも通りの課長だった気がする…。あれ、もしかしてもう怒ってない?


良かった。これで、おでんを食べながらぽつりぽつりと会話を交わせばいつものふたりに戻れる。

さて、出汁はちゃんと染み込んだかな。

そう思ってアルミホイルを取ろうとしたとき、私は自分の犯した失敗に気が付いた。


しまった…!いつも通りに鶏出汁で作ってしまった。

課長が前に好きだと言って食べさせてくれたのは、名古屋名物である味噌ダレのおでんだ。


もう、せっかくいい感じだったのに…。

< 158 / 260 >

この作品をシェア

pagetop