どん底女と救世主。
決して広くはないシンクでふたり並び皿洗いをするのは、今日が初めてではない。
ゆっくりとふたりで食事を摂ったあと、必ず深山課長はお皿洗いを手伝ってくれる。
私が洗剤で洗い、課長が水ですすいで水切りラックへとお皿を置く。この一連の流れがいつのまにか出来てしまった。
私は深山課長の家に居候していて、しかも居候の条件が家事をこなすことなんだから、課長に皿洗いなんかさせる訳にいかないのに。
座っててくださいとしつこく言うのに全く聞いてくれない課長を、何度もキッチンから追い出したけど課長も頑固だからなかなか曲げてくれなくて。
結局、私が根負けしてふたりですることになったんだけど。
皿洗いは嫌いだったはずなのに、なぜだか今は嫌いじゃない。
むしろ、この時間が心地良かったりする。
なんでだろう、嫌いなはずの皿洗いが今は全然苦じゃないのは。
「明日の予定は?」
「特にない、です」
名古屋に行くときに同僚から貰ったという、薄くて軽くて正直洗い辛い課長のビールグラスを割らないように集中していると、隣からぼそりと声が聞こえた。