どん底女と救世主。


何度目かの乗車になる課長の車はやっぱり立派で、ふかふかのシートが少し緊張した身体をほぐしてくれる。


運転席の深山課長は、マフラーを巻いたまま今日も暖房をマックスにしながら発車させる。


どこに行くんだろう。
どうしよう。やっぱり会社だったりしたら…。

そんなの私、痛すぎる。

駐車場を出て右折。
ああ、会社に行く道と同じだ…。


ちらりと隣を見ると、課長はハンドルを一生懸命にさすっていた。
どうやら冷たいハンドルを温めているらしい。


課長って意外と寒さが苦手だと思う。

まだそこまで寒くない季節からコートを出していた。
『まだはやくないですか?』て聞いたら、何言ってるんだって顔でみられたし。


深山課長のイメージは、苦手なことなんて何ひとつない完全無欠な男ってかんじだったのに。
寒さに弱いって、なんだか可愛い…。


そんなことを私が横で考えているなんて知らない課長の運転で車はどんどん進んで行った。
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