どん底女と救世主。


そう開き直ると、少し歩く速度を早める。すると、スピードを速めたことで一歩分前に出た。

今まで一歩後ろに下がって背中を追いかけるように歩いていたけど、今は隣に並んで歩く。

会社の上司で、居候先の家主で。
本来横に並んで歩くような関係じゃない。

それでも今は、今だけは隣に並んで歩くことを許して欲しい。


なんて、自分でも一体誰に許しを乞うとしているのか分からないままに歩いていると、課長が足を止めた。

たどり着いたのはギフトショップが並ぶ通り。
そして、何も言わないまま課長はひとつのお店に入って行く。

ここは…。


「ベビー用品店ですか?」

「ああ。実は同期の亀井に二人目が産まれたらしいから祝いを買おうと思ってな」

「亀井って、経理の亀井主任ですか?」


亀井主任って、そう言えば矢部君が『相当頭が切れる人だ』って言っていた気がする。
深山課長と亀井主任。なんだか絵になるふたりだな…。


「俺も課長に就任したとき、コレ貰ったしな」


そう言ってポケットから出したのは、課長が愛用している革のキーケース。

ブランド物で高そうだな、とは思ってたけど亀井主任から貰ったんだ…。流石にセンスいいな。

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