どん底女と救世主。
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「咲、ちょっと聞いてるの?」
「え、ごめん。聞いてなかった…」
「もう、ちょっとー」
正直に答えると、同期で親友の絵理は目の前でぶぅと、不満げにほおを膨らました。
『咲から誘ってきたのに』と文句たらたらの絵理に謝りつつ目の前にあるトムヤムクンを取り分ける。
絵理の好きな海老を多目に入れて許してもらおう。あと袋茸も。
彼女の旦那さんである矢部くんは辛いものが苦手だから、絵理とごはんに行くときはエスニック料理屋さんが多い。
矢部君は、辛いものを食べると汗が止まらなくなるらしい。こんなに美味しいのにな。
今頃盛り上がっているであろう深山課長の祝勝会には誘われはしたものの、気分が乗らずに断ってしまった。
でも、なんとなくひとりで居たくなくて。
結局絵理に夕飯に付き合ってもらっているというのに、私は気を緩めると上の空になってしまうらしい。