どん底女と救世主。
「ねえ、咲」
「うん?」
トムヤムクンとタンドリーチキンのダブルパンチで火を吐けそうなほどに燃えている口の中をヤムウンセンで休めていると、急に絵理が改まって名前を呼んだ。
なに…。もしかして勝のことだったりしたら嫌だな、なんて思っていると、
「深山課長と何かあるの?」
「へ?!」
思わず出てしまった大きな声が半個室になっているこの部屋に響く。
まさかこの流れで深山課長の名前が出るなんて…。
さっきまで、辛さで熱くなっていた身体が一気に冷めて行くのが分かった。
「ど、どうしたの?いきなり…」
「司がこの前そう聞いてきたからさ」
そうだ…。この前、矢部君と話している途中に深山課長がやって来て、話しもそのままに矢部君の前から消えたんだった。不自然極まりなく。
そういえばカフェオレも置き去りにした。
「咲を合コンに誘ったら深山課長に怒られた、みたいなことを言ってたけど」
ほんとなの?と絵理は果実酒をマドラーでカラカラと掻き混ぜながら疑いの目を向けてくる。