どん底女と救世主。
それに。
今なら、まだ引き返せる。
ただの上司と部下に戻れる。
ただ、私が家を失くしたとき課長の優しさで居候させてもらったことがある。
ただ、それだけの関係。
多大な恩はあるけど、それ以外は何も存在しない。
そんな関係に、今なら留められる。
『そう言えばそんなこともあったな』って。
『あのときは本当にありがとうございました』って、笑って言える関係に。
自分の中で沸き立ち始めたこの感情を抑えて、この前みたいに暴走しないように。
深山課長にお礼を言って、家を出よう。
そして、この気持ちは忘れる。最初から無かったことにしよう。
課長に感謝や尊敬の気持ちはあっても、それ以上はない。
むしろ、『この鬼上司!』とか、悪態をついていたぐらいの。
あの頃の気持ちに戻ろう。