どん底女と救世主。


少し困ったような焦ったような表情の勝の、私を掴む手に力が増す。


私が悪いの?浮気を許せないなんて、心が狭すぎるってこと?


言葉にしたいのに、喉でつっかえて出てこない。
そんな自分が悔しくて涙が出そうだ。

でも今、涙なんて流してしまう方が悔しいから必死に耐える。


「離してよ、離してってば」

「咲、もう少し冷静に聞いてくれよ」

「冷静に、って…!」


なにそれ。まるで私が意固地になってるみたい。

手を離そうと力を込めるけど、全く力が緩みそうにない。

我慢してたのに、まだ我慢していたいのに涙がぽろりとこぼれ落ちる。


心が折れかけてどうすれば分からなくなってきたとき、


「おい、何してる」


耳に届いたのは、聞き慣れた心地よい低いテノールだった。


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