どん底女と救世主。
「野田さんも先輩のことが忘れられないって会ってくれなくなるし。
今度は深山課長ですか?」
「え?」
「私、知ってますよ。お二人が付き合ってること」
「なんで…」
「見たんです。二人がデパートでデートしてるところ」
あのとき、見られてたのか。
デートじゃないけど。
「だから、二人の仲を裂こうとしたのに深山課長に近づいたんです。なのに、課長も全然私のことなんて見てくれなかった。
でもそんな深山課長も出張中で、誰も先輩のことなんか助けに来ません」
そう言うと、希ちゃんは振り返り扉へと向かう。
まずい、本格的に置き去りにされる。
朝までこんな埃っぽいところにいるなんて嫌だ!しかも、冷えるし!
もしかして、ここが私の真のどん底?
そう思った瞬間、なぜか深山課長と過ごした日々が走馬灯のように頭の中を駆け巡った。
こんなときに私が頭に思い浮かべるのは、深山課長の顔なんだな。
ああ、馬鹿だな私。もうとっくに引き返せないところまで来てたんだ。
この気持ちを無かったことになんて、出来るはずもなかったのに。
涙が滲んできたとき、資料室の扉が開いた。
もう、終わりだ。ついに希ちゃんが出て行ってしまう。
そう思ったとき、聞こえたのは希ちゃんの驚いた声で。
「え」