どん底女と救世主。

スカートを抑えながら、ゆっくりとはしごを降りる。
こんなときでも、乙女心は顔を見せる。


「深山課長、ありがとうございました。本当に助かりました」


そう言って勢いよく頭を下げると、


「大体お前は後輩の扱い方が下手なんだよ。甘やかせばいいってもんじゃない」

「うっ」

希ちゃんだけでなく私までも怒られてしまった。
でも、深山主任を反面教師にした結果なんです。


ごめんなさい、と顔を上げると課長と目が合う。


あっ…。

課長とまともに顔を合わせるのは、あの日の夜以来。


嫌でもあの夜のことが蘇ってくる。


それは課長も同じらしく、ふたりの間に気まずい空気が流れた。


その空気に先に耐えられなくなったのは、課長だった。


「お前も今日は残業はいいからもう帰れ」


そう言い残すと、踵を返し出口へと向かう。

課長が、行ってしまう…。


私、まだ大事なことはなにも言ってない。


「いかないで」


なけなしの勇気を振り絞り、重い足を引きずって課長に駆け寄った。


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