どん底女と救世主。
どん底女と救世主。
「いかないで」
振り絞って出した言葉はそんな一言で。
去りゆく背中に思わず縋り付いてしまった私は、課長のその大きな背中に顔を埋めた。
「私、臆病者でごめんなさい」
篭る声は、課長に届いているだろうか。
課長は、最初に私が背中に激突したときに肩をびくりと震わせたきり、微動だにしない。
今、どんな表情をしているんだろう。
困っていたら、本当に重ね重ねごめんなさい。
でも、今だけ。今だけは許して下さい。
「もう遅い、ですか?」
「遅い」
震える声で言ったその言葉は、課長の無情な一言ですっぱりと切られた。
やっぱり、もう駄目か…。というか、最初から駄目だったのか。
背中からゆっくり顔を離したとき、急に課長が振り返った。
私たちは、再度向き合い見つめ合う。