どん底女と救世主。



「深山君はもともとうちの一課で活躍してくれていたから、知ってるものも多いと思うが。よろしく頼むよ、救世主どの」


と、背中をバシっと叩かれた深山主任は、よして下さいよと苦笑いしながら前に出た。


「この度の異動で課長を命じられました、深山です」



さっきまでざわついていた部内も鎮まり返り、低く響く声に誰もが耳を傾ける。


一歩前に出て、簡単な自己紹介と今後の営業戦略における営業方針について堂々と語る姿は昔と変わらない。


それどころか、前にはなかった渋みというか大人の魅力が滲み出ていてこの場にいる女性社員はもちろん、男性社員までを魅了している。


前も十分に格好良かったけど、さすが課長に任命されただけあって、頼もしさが増している。


そこだけは認めよう。苦手な存在に変わりないけど。


できるだけ関わらないようにしよう、と心に決めたとき、


ーーーバチッ。


あ、目が合ってしまった。



それだけでもう、私は蛇に睨まれた蛙状態。


どうしよう、この先この一課でやって行ける気がしないよ。

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