どん底女と救世主。
新しい部屋が見つかるまで間借りさせて貰うだけ。
課長だって、困ってる部下を放っておけないだけだ。
私ひとりで意識し過ぎているだけなのかもしれない。
こんなにいい話を、課長の好意を無下にしていいわけがない。
腹をくくれ、咲。
でも、課長は本当に迷惑じゃないんだろうか。
そう思い、目の前に座る深山課長を見るとじっと私の返事を待っている。
「本当に良いんですか?」
「いいと言ってるだろう」
恐る恐る聞くと、深山課長はしつこいと言わんばかりに眉間にしわを寄せる。
「ありがとうございます。お世話になります」
ああ、と短く返事をした深山課長。
「なるべく1ヶ月以内には出て行きますから」
「そんなに焦らなくていい」
焦らなくてもいいだなんて、深山課長の口から初めて聞いた。
いつも仕事では、『遅い、急げ』って言ってるのに。
少し前までは鬼上司とか言って怖がっていたのに、今は彼が救世主に見える。
でも、私の救世主さまはそんなに甘くはない。
「荷物取りに行くぞ」
やっぱり、深山課長はスパルタでした。