どん底女と救世主。
想い出に、さようなら。
「荷物取りに行くぞ」
荷物はどうするんだ、とか荷物取りに行くか?とか。
そういう疑問系じゃなく、完全なる断定系。
課長の中では、もうすでに決定事項らしいそれは、私にとってはできれば避け続けたいことだった。
「…どこにですか?」
「決まってるだろう」
他にどこがあるんだと険しくなる目は、一応はぐらかしてみようとした私の目論見を粉砕する。
課長の差す場所は間違えなく、私が先週まで勝と住んでいたマンションのことで。
私が未だ近寄りたくない場所。
淡々と言うこの人はやっぱり鬼だ。
行きたくない…。あの部屋に近寄りたくない。
でも、確かに荷物を取りに行かないわけにはいかない。
眉間にしわを寄せ、黙りこくり明らさまに行きたくないオーラを私が出していたとき、
「今日は大きな宴会入ってただろう」
と、課長が静かにそう言った。