どん底女と救世主。
「…汚いな」
確かに。課長がそう言うのも無理はない。
一週間前私が部屋を飛び出したときとは比べ物にはならない、足の踏み場がないほどに汚れた部屋は本当に私がついこの前まで過ごしていたマンション?と聞きたくなるほど。
希ちゃん、片付けに来たりしてくれないんだろうか。
部屋の散らかり具合に驚きながら全体を見渡していると、目の端に忌まわしい記憶の権化となってしまったカウチソファが映り思いっきり目をそらす。
あまりここには居たくない。
早く荷物を取って部屋を出よう。
ボストンバックや大きめのトートバッグの中に服や自分の雑貨を押し込めていく。
これもお前のじゃないのか、と台所で課長が指さしたキッチン道具も根こそぎ取る。
リビング、台所、洗面所の化粧品まで詰めるとさすがに手持ちのバックには入りきらなくなって困っていたとき。
何かないかと部屋の中を目だけで物色していると、課長が隅の方で前に通販で買ったものが入っていた段ボールを組み立て直してくれていた。
「ありがとうございます」
「いいから、早く詰めろ。帰るぞ」
そう言って乱暴に箱を渡す課長のぶっきらぼうな優しさが今更分かるなんて。
やっぱり私は男を見る目がないのかもしれないな。