どん底女と救世主。
ごめん、と言われても正直困る。許す気なんて最初からないわけだし。
希ちゃんとはいつから?とか、どっちからなの?とか。
聞いた方がいいことは山ほどあるような気もするけど、そんなこと聞きたくないという気持ちの方が勝った。
「いいよ、もう。はい、これ」
差し出したのは勝と住んでいた部屋の合鍵。
テーブル伝いに勝の方へとスライドする。
「荷物は?」
「昨日もう運んだよ」
気づかなかったんだ。けっこうな荷物を運び出したって言うのにな。
勝にとって、私の存在はそんなものかと変なところで感じとってしまって、口に含んだアイスコーヒーがすごく苦く感じた。
「俺、希とはそういうんじゃないんだ。あのときは咲との関係で悩んでることがあるって相談されて、それで」
「そういうの、聞きたくない」
自分で思うよりもずっと冷たい声が、静かな店内に低く響いた。