どん底女と救世主。




「お帰り」

「た、ただいま戻りました…」


これから住むって言うのに、ひとりで開けるのは初めてで少し緊張しながら玄関のドアを開けリビングへと上がるとそこには当たり前だけど課長の姿があった。


早めのお風呂に入ったらしい課長は綺麗な黒い髪に水が滴っていて、なんだか妙にセクシーで、反射的に目をそらす。


帰る家に課長がいることが、課長に「おかえり」と言われることが、今から課長のご飯を作り一緒に食べることが。

その全てが新鮮で、信じられなくて現実じゃないみたいだ。


「おい」


そんなことを考えて、少しぼーっとしているといつの間にか目の前に銀色のものが差し出されていて、反射的に手にする。


手渡されたのは、合鍵…。


「これ…」

「無いと不便だろ」


いつのまに作ってたんだろう。


「ありがとうございます…!」

「腹減った」


課長は私のお礼なんて受け取らず、リモコンでテレビの電源を入れる。


つい一週間前に、恋人と後輩に裏切られて帰る家を失ったばかりの私に居場所をくれた課長の背中に深く頭を下げる。


ありがとうございます。お世話になります。


こうして、私と深山課長の同居生活が始まった。

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