パンデルフィーの花びら
市場の片隅で
「いらっしゃいませ。お花、いかがでしょうか」
ここはレンバート王国で一番大きなテトラ市場。毎日多くの人で賑わう、活気のある場所だ。
野菜や果物、新鮮な魚介類まで何でも揃う。
「お嬢さん、一輪もらえるかい?」
「ありがとうございます!」
ライナは嬉々として花を包んだ。丹念に育てた花を買ってもらえるのは本当に嬉しい。
「30リリーになります」
「はいよ、ありがとね」
ライナから花を受け取ると、客は嬉しそうに去っていった。ライナはそれを見て、思わず笑顔になる。
「ーーたったの一輪しか買わなかったのに、随分嬉しそうだこと」
棘のある一言が胸に突き刺さる。ライナはいつものことだと自分に言い聞かせ、笑顔を作った。
「おはようございます、ミレーヌさん」
ミレーヌは、このテトラ市場を取り仕切るラヴォナ家の一人娘だ。今年17歳ということは、ライナより3つ下になる。
さすが資産家ラヴォナ家の令嬢だ。身に付けている高級そうなワンピースから覗く、裾の繊細なレースが揺れている。
「言っておくけど、あなたの売り上げはこの市場で最低よ。普通は即刻店仕舞いだわ。それなのにここに居られることを、私のお父様に感謝なさい」
ふん、と鼻を鳴らし、ミレーヌは踵を返した。体の動きに合わせてさらさらと揺れるワンピースに思わず見とれてしまった。
ーーミレーヌの言う通りだ。
ライナは花売りをしてはいるが、売り上げが芳しくない。
この市場には他にも花屋が沢山あり、そちらは取り扱っている種類も豊富だ。
ライナが扱っているのは数種類しかないうえに、自分で育てたものだけなので数も少ない。しかし、一人で切り盛りするには、これが精一杯だった。
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