パンデルフィーの花びら
「ーー 一体どれだけ泣いたらそんなに腫れるのですか」
ライナはイルミスに両肩をつかまれ、彼の胸からゆっくり離された。すっかり夜になった空気がするりと頬を掠めて、少し肌寒い。
イルミスが言っているのは、ライナの目のことだろう。誰にも会わずに済むからと、人目も憚らず大泣きしていたのは、つい先程のことだ。魔女騒ぎですっかり忘れていたが、今のライナの顔はとても人に見せられるものではない。
「……」
近付いたせいで、しっかりイルミスに顔を見られていたのだ。ライナはもう見せまいと俯こうとするが、それよりも先に大きな右手がライナの左頬を捉えてしまい、向きを変えることはできなかった。それどころか、イルミスに目線を合わせられてしまう。至近距離の碧い目が悲しげに揺れたように見えた。
「ーー私のせいですね。貴女を泣かせてしまった」
「違います、私がっ」
ライナは、イルミスの謝罪に慌てて反論をした。
「……私がいい気になって、勘違いしてしまったのです。私、自分のことも、イルミスさんのことも、何も知ろうとしていなかったので」
そこまで言うと、無理やり引っ込めたはずの涙がまたぽろりと零れた。焦ってハンカチを取り出して拭っていると、それがイルミスから貰ったものだと思い出し、また慌てる。
(これでは未練がましい女だと思われてしまうーー)
先ほどの涙がまだ乾いておらず、ひんやりとしたハンカチを握りしめて俯くと、頭上から息を吐く音が聞こえた。
「ライナ。貴女には謝らなければならないことが沢山ある」