パンデルフィーの花びら
謝罪の理由
イルミスはライナの頬を伝う新しい涙を指で拭うと、目を伏せた。
「先ほどの花祭りでのことは、申し訳なかった」
礼節をわきまえているイルミスらしい謝罪だ。そもそもイルミスがライナに謝罪する必要など本来はないだろう。ライナの立場が不利にならないように図ってくれている心遣いを感じ、ライナも謝罪を重ねた。
「私の方こそ、部外者だったのに……すみませんでした」
「良いのです。ライナは何も悪くない」
緩く首を振るイルミスを、ライナは不思議そうに見つめた。何も悪くないとはどういう意味なのか分からなかったからだ。
「あの後、ミレーヌ殿が血相を変えて飛んできた時は、頭が真っ白になりました」
「あ……私、ミレーヌさんに言わずに来てしまって……」
ミレーヌはライナの姿が見えないことで探し回っていたのだ。声をかけなかったことは、やはり間違いだったのだとライナは息を吐いた。
「それから、庭園中を探しました。それでも見つからず、まさかとは思いましたがミレーヌ殿の御者へ聞きに行ったのです。そこで貴女が歩いて戻ったことを知りました」
顔を上げたイルミスの顔はわずかに紅潮していて、興奮して話していることが感じ取れる。当時のことを思い出しているのだろう。
「一時の感情に任せて酷いことを言ってしまいました。ーー本当は、ライナに会えて嬉しかったのに」
今度はライナの顔が赤くなる。正直な感情が、時に勘違いさせてしまうことをよく知っているだけに、自分の気持ちを抑えることに必死だった。
「貴女を視界に認めた時、すぐさま駆け寄りたい衝動に突き動かされました。しかし花祭りの警備中だったため、後にしようと思ったのですが」
イルミスはふうと息を吐いて、小さく笑った。
「ーー私は、自分がこうも嫉妬深い男だとは思ってもいませんでした」
「嫉妬? イルミスさんがですか?」
イルミスがゆっくり頷く。