パンデルフィーの花びら
そんな時を過ごしている中で、ライナはイルミスがいつ来てもいいように簡単な支度をするようになっていた。今日のようにお菓子を用意しておけば、突然のお茶でも口寂しくはならないだろうと考えている。
ライナは、イルミスの気まぐれな訪問を本当はとても待ち遠しく思っている。
しかし、自分の気持ちを自覚してしまってからは隠すことに必死だ。会話の節々にそういった感情が見え隠れしていないかいつも心配になってしまう。
「もしかしてライナ、いい人でもできた?」
ライナに頼まれた品物を用意しながら、セーラは楽しそうに声をかけた。すっかり物思いにふけってしまっていたライナは、耳慣れない単語に勢いよく顔を上げる。
「え?! い、いい人なんて、そんなーー」
「その慌てっぷり。ますます怪しいねえ」
これはダグラスに報告しないと、とセーラは嬉しそうに笑った。ダグラスはセーラの夫で、この店の主だ。買い付けのために日中は不在にしていることが多い。
「本当に違うので、ダグラスさんに報告なんてしないでくださいね!」
「はいはい。今度紹介してね」
「もう!」
ライナは頬を膨らませながらも代金を支払い、品物を手持ちの布袋へと詰めた。セーラは、ライナの両親が生きていれば同じくらいの年齢のはずだ。きっと娘を思う母親のような心境なのだろう。時折見守るように優しくライナを見つめている。
ひと通り話し終えたところで、セーラは思い出したように言った。
「ああそうだライナ。リンディアの花って育てられる?」
「リンディア、ですか」
「そう。ダグラスがこの前、市場で見かけたらしいんだよ。あの人ったら昔を思い出しちゃってーーよくマリーさんに頼んで分けて貰ってたからねえ」
「わかりました。育ててみますね」
市場に出ていた頃は一定の需要があったため定期的に育てていたリンディアの花。この国の代表的な美しい花だ。確か種はまだ家に残っていたはずだと考えながら、ライナは店を後にした。