パンデルフィーの花びら
ーーその直後だった。
「おや、ライナ。買い物ですか」
すっかり聞き慣れてしまったその声に、弾かれたように顔を上げる。
「イルミスさん……!」
「そんなに驚かなくても」
購入した品物を入れた布袋を腕に提げて歩き出そうとしていたライナは、視界にイルミスの姿を認めると驚愕の表情を浮かべた。それもそのはずだ。この買い物自体、イルミスへ出す予定のお茶やお菓子を買うことが主な目的だったし、先ほどまさにそのことでセーラにからかわれたばかりだったからだ。
そんな渦中の人物が偶然に現れて、驚かないはずがない。
「まさかここでお会いするとは思わなかったので……」
思い焦がれている相手が急に現れたことで、ライナの心拍数はどんどん上がっていく。イルミスはそんなライナの前に手を出して恭しく願い出た。
「荷物をお持ちしてもいいですか?」
「えっ?! いえ、重いものはないので大丈夫で……あっ」
やんわりと断ろうとしたライナの布袋はあっという間にイルミスに奪われてしまった。
「さあ、行きましょうか」
ライナの主張はイルミスに都合よく遮られてしまった。呆然と立ちすくむライナを後目に、イルミスはスタスタと湖の方へ歩いて行く。
「ま、待ってください」
慌てて追いかけようとしたライナの耳に、ガチャンと不快な音が響く。不思議に思って振り返ると、目を限界まで見開いたまま固まるセーラの姿があった。割れ物でも落としたのか、彼女の足下には白い破片が散らばっている。
(どうしよう、セーラさんに見られてしまったわ……!)
店へ戻ってセーラに弁解をしようかとも思ったが、イルミスに置いて行かれてしまってはいけないので、ライナは小走りで湖の方へ向かった。