パンデルフィーの花びら
「言いづらいかもしれませんが」
気持ちも楽になりつい食事に夢中になっていると、イルミスがそう尋ねてきた。ライナが顔を上げると、真剣な顔をしている。
「ライナのご両親は、どうされたのですか」
「……」
「言いたくなければ、結構ですよ」
「いえ……。私の両親は、10年ほど前に亡くなりました。流行病で」
ーー10年前、この国に爆発的に流行した病があった。感染経路は不明のままだったが、主に農村部での被害が深刻で、沢山の人が亡くなった。ライナは運良く免れたのだが、両親が帰らぬ人となってしまった。
「私には、両親以外の身内が祖母しかいなくて。引き取ってもらってからは、ずっとここで暮らしています」
「そうでしたか。……辛かったですね」
「祖母もいなくなってしまったときは、この世の終わりだと思いました」
でも、とライナは付け加える。
「花は咲くんです。祖母が亡くなってからしばらくは、何も手に着きませんでした。毎日、ただ悲しくて」
そこまで話すと、まるでその日に帰ったかのように、ライナは小さく笑んだ。
「そんなある日、畑を見たら花が咲いていたんです。生前、祖母が大事に育てていた花たちが、太陽の光を浴びながら輝いていたんです」
そう話すライナが、イルミスには眩しく感じられた。絶望の淵でひとり苦しんでいたライナの日々を思うと苦しくなったが、今の彼女の表情は晴れやかに見える。