パンデルフィーの花びら
今日のライナには、買い物よりも大事な話がある。このまま何も言わずに帰ってしまおうかと怖じ気付いた矢先にかけられた言葉だっただけに、思わず本音が飛び出した。
「……セーラさん。ひとつお願いが」
「ひとつどころかライナのお願いならいくつでも。何でも言ってよ」
「私に、何か料理を教えてください……!」
目の前に立ちすくむ彼女が、まるで本当の娘のようだとセーラは思った。今まで人に頼ることをしなかったライナのかわいい願いに、思わず口元が綻ぶ。
「料理? 別に構わないけど、なんでまたーーあ」
言いかけてセーラは気付いてしまった。顔を仄かに赤くして俯いているライナが料理を習いたいと思った理由に。
「……ははん。男心を掴むにはまず胃袋からって? よくわかってるじゃないの」
「えっ、べ、別に、変な意味はないんです! ……ちゃんとした料理を覚えれば、将来役に立つと思って」
まだまだ子どもだと思っていたのだが、いつの間にそんな顔をするようになったのだろうと、セーラは感慨深く目を伏せたままのライナを見つめた。
「大丈夫大丈夫。あたしに任せとけば、すぐにいいお嫁さんになれるよ!」
「だから、違いますってーーー!」
端から見ればまるで仲の良い親子のような会話だと、セーラは満足げに微笑んだ。
「じゃあ早速今日から始めようか。幸か不幸か今日はお客さんが全然来ないんだ」
「そんな急に……お邪魔ではないですか?」
「何が邪魔なもんさ。なんなら泊まっていきなよ、ダグラスも喜ぶから」
「……ありがとう、セーラさん」
こうして、ライナはセーラから料理を習うことになった。