パンデルフィーの花びら
今朝もいつものようにテトラ市場は活気付いている。何とか間に合い、隣近所の店に挨拶を済ませたライナは、今朝摘んだばかりの花を並べ、せっせと準備をしていた。
「おはようライナ」
少し高いその声が響いてドキリとした。ミレーヌの声を聞くだけで、目眩がする。
「おはようございます、ミレーヌさん」
振り返ると、今日のミレーヌは一段と華やかだった。淡い水色のドレスが良く似合っている。彼女のような家柄の人は、頻繁に食事会やパーティーがあるのだろう。
彼女の、薔薇色をした形の良い唇から出てきた言葉に、ライナは目を見開いた。
「ーーえ?」
「せっかくあなたと仲良くなれたのに、残念だわ」
全く残念そうに聞こえない言い方をして、ライナの前から軽やかな足取りで去っていく。言葉とは真逆で、ミレーヌとは決して仲良くはなかったが、今はそんなことは一切気にならなかった。
ミレーヌの台詞が何度も何度も反芻する。
まるで向こうの丘の上に見える教会の立派な鐘が、すぐ耳元で何度も狂ったように鳴り響いているようだ。
『あなたのお店、売り上げが悪いから立ち退きが決まったの。別のお店を入れるから、7日以内に出ていって頂戴』
ーーあと7日で店を畳まなければならない。
ミレーヌの日々の言動から、いつかそんな日がくるかもしれないと漠然とした不安はあったが、あまりにも早い幕切れに頭がついていかない。
ーーどうしようどうしよう。ごめんなさい、おばあちゃん。
何をどう売ったのか記憶もないくらい、その日は上の空だった。