パンデルフィーの花びら
知るということ
「ええ?! きっ……騎士様、とは?」
不意打ちのように放たれた言葉に、ライナは大いに狼狽えた。何故ミレーヌがそんなことを言い出したのか、見当がつかない。彼女は一体何をどこまで知っているのだろうかと、ライナは不安になった。
「別に隠さなくてもよくってよ。噂は知っているわ。王国の第二騎士団長様は、森の奥に住む花売りにご執心なんでしょう?」
「第二騎士団長様……?」
ミレーヌは、もしかしたら自分自身よりも自分のことに詳しいのかもしれないと、ライナは他人事のように思ったのだった。
「イルミス・リオーシュ様といったら、若くして騎士団長になられた大変有能な方よ。……そんなことも知らずに会っていたの、貴女」
信じられないと呟いたミレーヌは、不満げに顔をしかめた。そうは言われてもライナはライナで、両手で抱えきれないほどの言い訳がある。
「そういう意味で会っていた訳ではありません。イルミスさんが花に興味を持ってくださったのでお分けしたり、近くを見回ってくださったときに寄っていただいたりしたのです」
決して嘘は言っていない。ついでに一緒に食卓を囲んだり、畑仕事を手伝ってくれたりもしたが。どう説明しても解釈を違えられそうだったので、そのことは言えなかった。
(第二騎士団長様……)
ライナは心の中でもう一度呟いた。
その立ち居振る舞いから身分の低い者ではないことは感づいていたが、それほどまでに雲の上の存在だったとは。叶うならば、今までしてきた非礼の数々を詫びたかった。
ーー好きになってしまったことすら、謝りたいと思った。
今まで身分を明かさなかったのは、恐らくライナに自然に接して欲しかったからだろう。
やはり彼は、優しい人だ。
改めて、もう今までのように会えないのだと思うと、ぐっと胸が苦しくなった。