パンデルフィーの花びら
「嫌だわ。そんなに見ないで頂戴」
さすがのミレーヌもライナの眼差しに耐えきれずに、くるりと後ろを向いた。さらさら揺れる自慢の長い髪の毛は、今日は高い位置に結われている。すっきりと出された耳やうなじがうっすら赤くなっているのを見て、ライナはミレーヌが本気で照れていることに気付いた。
「あっ、ごめんなさい! つい」
やはり自分はミレーヌの足元にも及ばないと心の中の前言を撤回する。彼女こそがライナにとっては本物のお姫様だと、眩しそうに見つめてしまっていた。
そのような華やいだ雰囲気の中、不意に声が響く。
「やあお嬢さん方、お揃いで」
「お父様」
ミレーヌの父親であるクレトンがひょっこりと現れたのだ。ライナは慌てて挨拶をすると、クレトンは首を振って制する。
「ライナ。娘が大変な迷惑をかけたね。本当にすまなかった」
以前と変わらず穏やかな話し方だが、時折苦しそうな表情を見せるクレトンに、ライナは胸が詰まる思いだ。
「いいえ、ミレーヌさんには良くしていただいています」
決まりが悪そうに何も言えずにいるミレーヌを見やり、ライナは強調して言った。確かに辛いことや理不尽なことが沢山あったが、もうそれを責めるべきではないと考えている。
「……ありがとう。何だかライナはマリーさんに似てきたなあ」
「おばあちゃんに、ですか?」
ライナが尋ねると、クレトンは目尻の皺を深めながら白い歯を見せた。