パンデルフィーの花びら
少し歩くと、主会場にたどり着く。数え切れないほど沢山の人が参加しているため、ライナは人に酔ってしまいそうだった。
立食形式の食事会も開かれており、あちらこちらで酒のボトルを開ける音や、配膳される食器の音が響いてくる。
ライナにとっては、夢のような空間だ。
目に映るもの全てが目新しく、ライナはしばらくの間散歩を楽しんだ。
「ライナ殿ではありませんか」
ライナが、給仕係に笑顔で渡された花を象った菓子を口に含んでいると、不意に声をかけられる。声のした方に振り返ると、見覚えのある髪の長い青年が立っていた。
「あ! 騎士様、こんにちは」
見知った顔が嬉しくて、ライナは笑顔になった。彼は時々見回りに来てくれる第二騎士団所属の若い騎士だ。普段とは違い、騎士団員の制服には銀糸の刺繍と飾り紐が誂えてあり、それが地の紺色に映えてとても美しい。
「素敵なお召し物ですね」
ため息と共に思わず呟くと、騎士は恥ずかしそうに笑った。
「ありがとうございます。こういう日は、祭礼用の制服を着るんです」
「では、滅多に見られませんね。ふふ、何だか得をした気分です」
つられてライナも笑っていると、長髪の騎士は言いにくそうに視線を逸らす。
「ライナ殿こそ、とても美しいです」
「え……」
普段のライナを知っているだけに、今の格好に驚いたのだろう。そのようなことを言われ慣れていないライナは、またしてもつられて恥ずかしくなり、顔を真っ赤にしたまま俯いてしまう。
「ありがとうございます……」
端から見れば初々しい2人だが、実際はそうではない。しかし、それを理解している人間がこの会場にどれほどいるのだろう。
「ライナ殿、頭に花びらが」
俯いたことでその存在に気付いたのか、騎士はライナにより近付き、頭にそっと手を伸ばした。
「あ……すみません」
何せそこら中に花が溢れかえっている有り様だ。花びらの一枚や二枚、頭や体に付いてしまうことは仕方のないことだろう。
ミレーヌの屋敷で整えてもらった髪型を崩さぬよう、慎重に騎士は花びらをつまむ。セーレンの白い花びらからは微かに良い香りがした。
遠くから見れば、その様子は恋人同士が抱き合っているようにも、密かに口付けているようにも見えてしまうほど近いものだった。