死は始まりなのだと彼等は言う
「うっせ、俺は仕事が山積みなんだよ。新人のテメェと違って俺は多忙なんだ。と言うかテメェは、いい加減髪にクシ入れやがれってんだ。寝癖ハンパねぇからな?」
「え、マジで?そんなにヤバイ?」
「どーやったらそんな鳥の巣みたいになる訳?朝1回ぐらいは鏡見ろってんだよ……もう大人だろ?身だしなみぐらい自分で……。」
「うるさいなぁもう……お前は俺の母親か。」
忠が怒って、慎也が拗ねて、また忠が怒っての繰り返しだ。でもその光景は、昔と変わっていない。大人になっても変わらない2人に、心が温かくなった。
「……仲いいな……相変わらず。」
ボソリと呟くと、忠が弾くように素早く反応した。
「えっ……今なんて……。」
「え?どうした忠。」
俺は目頭が熱くなるのを感じながら、精一杯笑って言った。
「……2人とも、久しぶりだな。昔と変わらない姿がまた見れて、すっげー嬉しいよ……忠、慎也……!」
少しの間が開き、慎也が口を開いた。
「……久しぶりって……遠ノ江……先、生……?」
「いったい……どういう、こと……?」
「まぁ、すぐに理解するのは難しいだろうけど……俺、どうやら生き返ったみたいなんだ。」
沈黙が続く。突然の告白に、2人とも理解が追いつかないのが顔に出ている。
『やっぱり……マズかったか……?』
忠がメガネを押し上げ、沈黙を破った。
「ちょっ……と待てよ……お前……本当に、あの友弥……なのか……?」
・・・
「あぁ、12年前に死んだ……遠ノ江友弥だ。」
「……友弥……なの、か……?」
「……あぁ……会いたかったよ……慎やっ……。」
慎也は俺が言い終わる前に抱きついてきた。きつくきつく抱きしめられた。顔を俺の肩に埋め、鼻をすする音が聞こえる。
「お、おい慎也っ……服に鼻水付けんじゃねぇぞ……慎也……?」
「っ……グスッ……ヒッ……ゆ……うやっ……なんでっ……でも……。」
顔を上げると、彼の顔はぐちゃぐちゃだった。喜びが一気に爆発したような顔だった。
「……会いたかったっ……!」
「っ……俺も、あえて嬉しいよ……慎也……。」
「ちょっと待て……まだ俺は納得してねぇからな。慎也も離れろ、コイツが本当に友弥かどうか……。」
忠は慎也の襟を引っ張るが、慎也は俺を離さない。忠の顔は不安でいっぱいだった。理解しがたい出来事が立て続けに起こり、不安になるのは当たり前だ。
「おい慎也……!」
「っ……分かるさ……コイツは、ユウだよ……昔と全然……変わってないっ……。」
震えた声で慎也は言った。こんなにも嬉しいことはない。俺からもきつく慎也を抱きしめ返した。涙が今にも溢れそうだった。
「っ……じゃあ……俺の誕生日はいつだ……ユウ。」
「へ?」
「……いつだ。」
まだ信じられない忠が、俺が本物かを確かめるように問いかけた。慎也は俺から離れると、黙って忠を見つめた。俺は涙を拭いながら忠へ言った。
「……知らない。」
「っ!」
「俺は生きている間に、忠から誕生日を教えてもらったことはないよ。だから、知らない。」
「っ……正解だ。」
忠は様々な質問を俺にぶつけるように問いかけた。文化祭での出来事や、よく遊びに行ったゲームセンターの名前など、たくさんのことを聞かれた。
「じゃあ最後……俺らに最後に会った日、俺が友弥に言った最後の言葉は?」
「……お前なら、絶対になれるに決まってる。だから死ぬな……だっけな。」
「……。」
忠は黙ってうつむいた。肩を震わせている。慎也が心配そうに忠の方へ行くと、慎也の顔がフッと緩んだ。
「ハハッ……こいつ、泣いてやんの……全く……素直に喜べっての。」
「っ……っせぇ……泣いてねぇわ……ボケッ……。」
忠は俺の胸に拳を当て、震えた声で言った。
「……クソがっ……帰ってくんのが、遅せぇんだよ……ノロマ……もう何年……経ってるとっ……!」
「へへっ……悪いな、死んでたもんでな。だいぶ、遅くなっちまったわ。」
忠の拳を掴み、俺の顔へと当てた。忠の目を見てニッコリと笑うと、彼は涙ぐんだ目で笑い返した。3人で抱擁し、久しぶりの再会を喜んだ。それを見越したように、学校の鐘が鳴り響いた。
「ハハッ……ヤッベ……飯全然食えてねぇじゃん。」
「忠は授業ないからいいだろ?俺はお前のクラスで授業だよ……っつーか今の予鈴じゃねぇかっ!遅れたらシャレになんねぇっ!!」
慎也は急いで弁当をしまうと、屋上のドアへ向かった。
「あっ、ユウ!!」
「な……なに?」
「今日学校終わったら、3人で飲むぞ!!」
そう言い残し、彼は雑にドアを開いて屋上から去って行った。
「飲むぞって……どこでだ?」
「ほー……その手があったか。俺らが行き付けの居酒屋があっからよ、多分そこの事だろう。お前酒平気なのか?」
「ん〜……大丈夫なんじゃね?」
「お前……変わってないなぁほんと、マジ心配でたまんねぇわ。」
忠に肩をポンと叩かれ、忠は屋上のドアへ向かった。
「やることやったら迎えに行くから、ユウは無理せず頑張れよ。じゃあ、夕方会おうぜ。」
忠は左手を白衣のポケットに手を突っ込んで、右手をヒラヒラと振りながら屋上を後にした。白い背中を見送った後、佐渡島先生から貰ったパンを頬張った。
「……しっかしまぁ、俺の涙腺も脆いもんだ……。」
3人の感動の再開で、いい大人が、しかも男がボロクソに泣いて抱き合うなんて、なんて絵面だろうか。今思うとかなり恥ずかしい。しかも1番驚いたのは……。
『……忠が……俺のために泣いてくれるなんてなぁ……。』
いつも俺たちを叱ってくれて、涙を見せることのなかった忠が、泣いてくれるとは思いもしなかった。学生の頃俺は、涙脆いことはなかったのだが、ちょっとした事でボロボロと泣いていまいそうなほど、今は涙腺がユルユルだ。
『ヤッベ……また泣きそう……。』
思い出しただけでウルッと来てしまう。
「……歳……ってほどいってないはずなんだがなぁ……。」
よく聞く、歳を取ると涙腺が脆くなるとはこういうことなんだろうなと、身をもって知った。まだ俺が生き返って間もないが、かなり順調に事は進んでいるように思える。学校には溶け込めていると思うし、2人との接触も成功した。
『あとは、2人を悪魔から守る……ってことかな……?』
ヨルからあまり詳しいことを聞かされていないために、何をしていいか分からないが、とりあえずノルマ達成という所だろうか。
「……まぁ、なんとかなるかぁ……!」
伸びをして、暖かい陽気を肺いっぱいに吸い込んだら、職員室に向かうべく、屋上の扉を開けた。
「え、マジで?そんなにヤバイ?」
「どーやったらそんな鳥の巣みたいになる訳?朝1回ぐらいは鏡見ろってんだよ……もう大人だろ?身だしなみぐらい自分で……。」
「うるさいなぁもう……お前は俺の母親か。」
忠が怒って、慎也が拗ねて、また忠が怒っての繰り返しだ。でもその光景は、昔と変わっていない。大人になっても変わらない2人に、心が温かくなった。
「……仲いいな……相変わらず。」
ボソリと呟くと、忠が弾くように素早く反応した。
「えっ……今なんて……。」
「え?どうした忠。」
俺は目頭が熱くなるのを感じながら、精一杯笑って言った。
「……2人とも、久しぶりだな。昔と変わらない姿がまた見れて、すっげー嬉しいよ……忠、慎也……!」
少しの間が開き、慎也が口を開いた。
「……久しぶりって……遠ノ江……先、生……?」
「いったい……どういう、こと……?」
「まぁ、すぐに理解するのは難しいだろうけど……俺、どうやら生き返ったみたいなんだ。」
沈黙が続く。突然の告白に、2人とも理解が追いつかないのが顔に出ている。
『やっぱり……マズかったか……?』
忠がメガネを押し上げ、沈黙を破った。
「ちょっ……と待てよ……お前……本当に、あの友弥……なのか……?」
・・・
「あぁ、12年前に死んだ……遠ノ江友弥だ。」
「……友弥……なの、か……?」
「……あぁ……会いたかったよ……慎やっ……。」
慎也は俺が言い終わる前に抱きついてきた。きつくきつく抱きしめられた。顔を俺の肩に埋め、鼻をすする音が聞こえる。
「お、おい慎也っ……服に鼻水付けんじゃねぇぞ……慎也……?」
「っ……グスッ……ヒッ……ゆ……うやっ……なんでっ……でも……。」
顔を上げると、彼の顔はぐちゃぐちゃだった。喜びが一気に爆発したような顔だった。
「……会いたかったっ……!」
「っ……俺も、あえて嬉しいよ……慎也……。」
「ちょっと待て……まだ俺は納得してねぇからな。慎也も離れろ、コイツが本当に友弥かどうか……。」
忠は慎也の襟を引っ張るが、慎也は俺を離さない。忠の顔は不安でいっぱいだった。理解しがたい出来事が立て続けに起こり、不安になるのは当たり前だ。
「おい慎也……!」
「っ……分かるさ……コイツは、ユウだよ……昔と全然……変わってないっ……。」
震えた声で慎也は言った。こんなにも嬉しいことはない。俺からもきつく慎也を抱きしめ返した。涙が今にも溢れそうだった。
「っ……じゃあ……俺の誕生日はいつだ……ユウ。」
「へ?」
「……いつだ。」
まだ信じられない忠が、俺が本物かを確かめるように問いかけた。慎也は俺から離れると、黙って忠を見つめた。俺は涙を拭いながら忠へ言った。
「……知らない。」
「っ!」
「俺は生きている間に、忠から誕生日を教えてもらったことはないよ。だから、知らない。」
「っ……正解だ。」
忠は様々な質問を俺にぶつけるように問いかけた。文化祭での出来事や、よく遊びに行ったゲームセンターの名前など、たくさんのことを聞かれた。
「じゃあ最後……俺らに最後に会った日、俺が友弥に言った最後の言葉は?」
「……お前なら、絶対になれるに決まってる。だから死ぬな……だっけな。」
「……。」
忠は黙ってうつむいた。肩を震わせている。慎也が心配そうに忠の方へ行くと、慎也の顔がフッと緩んだ。
「ハハッ……こいつ、泣いてやんの……全く……素直に喜べっての。」
「っ……っせぇ……泣いてねぇわ……ボケッ……。」
忠は俺の胸に拳を当て、震えた声で言った。
「……クソがっ……帰ってくんのが、遅せぇんだよ……ノロマ……もう何年……経ってるとっ……!」
「へへっ……悪いな、死んでたもんでな。だいぶ、遅くなっちまったわ。」
忠の拳を掴み、俺の顔へと当てた。忠の目を見てニッコリと笑うと、彼は涙ぐんだ目で笑い返した。3人で抱擁し、久しぶりの再会を喜んだ。それを見越したように、学校の鐘が鳴り響いた。
「ハハッ……ヤッベ……飯全然食えてねぇじゃん。」
「忠は授業ないからいいだろ?俺はお前のクラスで授業だよ……っつーか今の予鈴じゃねぇかっ!遅れたらシャレになんねぇっ!!」
慎也は急いで弁当をしまうと、屋上のドアへ向かった。
「あっ、ユウ!!」
「な……なに?」
「今日学校終わったら、3人で飲むぞ!!」
そう言い残し、彼は雑にドアを開いて屋上から去って行った。
「飲むぞって……どこでだ?」
「ほー……その手があったか。俺らが行き付けの居酒屋があっからよ、多分そこの事だろう。お前酒平気なのか?」
「ん〜……大丈夫なんじゃね?」
「お前……変わってないなぁほんと、マジ心配でたまんねぇわ。」
忠に肩をポンと叩かれ、忠は屋上のドアへ向かった。
「やることやったら迎えに行くから、ユウは無理せず頑張れよ。じゃあ、夕方会おうぜ。」
忠は左手を白衣のポケットに手を突っ込んで、右手をヒラヒラと振りながら屋上を後にした。白い背中を見送った後、佐渡島先生から貰ったパンを頬張った。
「……しっかしまぁ、俺の涙腺も脆いもんだ……。」
3人の感動の再開で、いい大人が、しかも男がボロクソに泣いて抱き合うなんて、なんて絵面だろうか。今思うとかなり恥ずかしい。しかも1番驚いたのは……。
『……忠が……俺のために泣いてくれるなんてなぁ……。』
いつも俺たちを叱ってくれて、涙を見せることのなかった忠が、泣いてくれるとは思いもしなかった。学生の頃俺は、涙脆いことはなかったのだが、ちょっとした事でボロボロと泣いていまいそうなほど、今は涙腺がユルユルだ。
『ヤッベ……また泣きそう……。』
思い出しただけでウルッと来てしまう。
「……歳……ってほどいってないはずなんだがなぁ……。」
よく聞く、歳を取ると涙腺が脆くなるとはこういうことなんだろうなと、身をもって知った。まだ俺が生き返って間もないが、かなり順調に事は進んでいるように思える。学校には溶け込めていると思うし、2人との接触も成功した。
『あとは、2人を悪魔から守る……ってことかな……?』
ヨルからあまり詳しいことを聞かされていないために、何をしていいか分からないが、とりあえずノルマ達成という所だろうか。
「……まぁ、なんとかなるかぁ……!」
伸びをして、暖かい陽気を肺いっぱいに吸い込んだら、職員室に向かうべく、屋上の扉を開けた。