とある国のおとぎ話
そんなどうでも良いことを考えるのは、死が背後まで迫っているからだろうか?
それでも、死が俺に追いつくことはない。
今はまだその時じゃない。
「ああ。ここにいたらお前の盾にでもされかねないからな」
「バレた?」
顔を膝に埋めて笑うサラにため息を落とす。
こんな非生産的な冗談の応酬をするのは、生と死の狭間で束の間の休息を享受できた解放感から来るものなのかもしれない。
薄汚れ、こびりついた血が落ちていない軍服を最後に羽織りサラを見やる。
すると、彼女は恋人になってからも見たこともないほど優しく微笑んでいたのだ。
その微笑みに虚を突かれた隙に腕を引っ張られる。
ライトに俺たちの影がかかり、ゆらりと揺れた。
唇が離された後、サラは呟く。
「私はまだ死なない。でも、死ぬ瞬間はあなたがいる時が良いわ。あなたに殺されるなら幸せだと思う」
「…………俺を道連れにする気だろ?お前と死ぬ予定はない」
掴まれた腕を振り払い、背を向ける。
顔を見なくても、サラが笑っていることがわかった。
本当に二人してどうかしていると部屋を出た瞬間、少し笑えた。
ふっと窓を見やると、暗闇の中でもわかる白で覆われた世界。
それが少し綺麗に見えたのは何故だろうか?