とある国のおとぎ話
「僕に感謝してくださいよぉ~。中央に戻って一週間、少佐に付き合ってあげたんですから」
「喜楽。てめぇは俺の補佐官だ。当たり前のことを得意げに言うな」
「女の子の誘いを断って仕事に励んだ僕にそんなこと言うんですか?一色少佐は津上少佐とデートするくせに」
喜楽、俺の補佐官の名だが、とにかく、喜楽はわざとらしく俺を白い目で見た。
「はぁ?」
「お手紙来てますよ。津上少佐から。明日会いたいって」
封が切られた便箋を喜楽からひったくった。
俺の許可なく見たことを咎める時間も惜しかった。
「…………」
双頭の鷲が描かれた軍で用いられる便箋には確かにサラの字。
サラの夢を見たのは、予感がしていたからだろうか?
手紙を封筒に戻すことなく投げ捨てると、喜楽は拾い上げ埃でも払うかのよう動作をした。
「しかし、こんな朴念仁少佐にあんな美人が彼女って世の中、理不尽ですよね!津上少佐とあんなことやこんなこと楽しめるなんて!少佐の変態っ!!ケダモノっ!」
「お前、あいつに殺されそうになったくせに良くそういうことが言えるよな」
呆れを通り越して、尊敬。
尊敬を通り越して呆れる。
4年前の東部の任務で、喜楽は反乱軍の小隊の指揮者であり、若干13歳という幼さで、あまりに人を殺すことに長けていた。
だからこそ、サラが指揮する部隊が殲滅に動いたのだ。
今のふざけた喜楽とは違って、血に飢えたそれこそ人間ではなく狂喜に満ちた獣のようであり止める術は、殺すことしかない。
幼かろうが、反乱軍であれば誰であろうと躊躇なく殺せる。
サラも喜楽を殺そうとした。
だが、俺が喜楽を譲り受けたのだ。