とある国のおとぎ話
「久しぶりだな。冬馬!」
この馴れ馴れしい呼び方は何度言っても変わることはない。
数か月前まで同じ参謀本部にいたから、こいつのことは嫌というほど知っている。
その身体能力の高さも、頭の良さも、そして何より人望に溢れていることも。
「藤崎。やっぱり、お前もか」
藤崎の謀反に気付いた時、意外性はなかった。
明るく、人情味あり、曲がったことが大嫌い。
まさしく、正義感の塊。
それゆえ、総統に反発するのはわかっていた。
部下の面倒見も良く、人望がある藤崎について行く輩は多い。
これからのことを思うと、ため息を吐くことさえ億劫だ。
ことごとく、嫌なことばかりが当たる。
そう、強く願ったことが叶ったことなんてない。
「さすがだな。冬馬の情報網は油断ならない」
鷹揚に笑う藤崎とは対照的に俺の顔は険しくなる。
額に手を当て息吐き、藤崎の隣に顔を向けた。
さきほどから気配なく、黙っている女に初めて視線を向ける。
雪が舞い、視界を阻む。
その視界の悪さで、映る姿も残像のように頼りない。
それでも、藤崎同様、いや、それ以上の付き合いだからどんな顔をしているのかなんてわかる。
女の長い髪を押さえる仕草は昔から変わらない。
「……サラ。お前もな」
分厚い灰色の雲に覆われた空を今の心境と重ね、うんざりと雪に覆われた地面を蹴った。