とある国のおとぎ話




 サラだけは絶対に生かしておけない。


 こちらが撃たなければ二人は撃たない。


 しかし、手負いとは言ってもサラの腕は知っているし、藤崎もいる。


 簡単ではない。


 間合いを取りながら、チャンスを見極める。


 すると、視界が悪い中で人影を捉えた。


 こんな場所に来る人間なんて限られている。


 敵か、味方か。


 小さく舌打ちをし、ゆっくりと後退する。


 今日は厄日。


 吹雪の中、こんなところまで出かけたのが運のつき。


 信じてもいない運命というものを呪って、心の中で毒を吐いた。

















「久しぶりだね。一色君」



 親しみと懐かしさがこもったその口調は嘘ではない。


 敵だとは言え、元部下への変わらぬ態度はこの男らしかった。


 しかし、花里が来るのは予想外だった。


 藤崎がこんな謀をするとは考えていなかった。




「藤崎、俺を謀ったのか?花里まで呼ぶとは、俺の勧誘によっぽど必死に見える」



 あまりに、分が悪い。


 どう切り抜けるかと思案しながら、銃を持つ手に力を込める。



「元上司を呼び捨てはないだろう」



「てめぇはもうSランクのお尋ね者だ」



 それに花里は寂しげに笑って見せた。



「勧誘には応じてくれないかな?」



「あいにく反逆人に成り下がるのは性に合わなくてな。てめぇらはここで始末する」



 花里が銃が繋がれた鎖に手を伸ばすのが見え、銃口を向ける。


 勝負は一瞬だ。




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