とある国のおとぎ話
「何?それはいけないね。一色君は完璧主義だから君も大変だろうに」
「そうなんですよぉ~。その上、短気で喧嘩っ早いでしょ?そのうち円形脱毛症になって、やがてはハゲたらと思うと!!」
「君がハゲたら、女の子たちが泣くね。それは国家の損失だよ。気を付けたまえ。一色君」
「もっと、言ってくださいよ!うわっ。い、一色少佐が睨んでるぅ~!!怖いぃ!!」
「……喜楽、いい加減にしろ。お遊びは終わりだ」
「一色君の短気には私も手を焼いたよ。上司の私でさえ睨むんだからね。君には優しくと幾度となく言ったんだけど効果がなかったね」
はっはっはっと笑う花里に、喜楽は目をすっと細めた。
今までと違う、溶けることのない氷のように低く冷めきった声が吹雪の中を舞う。
「だから、あんまりこの人を怒らせるようなマネしないでくれます?」
花里の心臓に銃口を押さえつけた。
俺の深いため息と、緊張が再び走ったのは同時。
だから、こいつは苦手なんだ。
「……残念だが、君の勧誘は諦めるしかないみたいだな。だから銃を締まっておくれ」
手を降参するかのように上げながらも、花里は落ち着いていた。
「藤崎君。君たちもだ。我々で殺しあったって無意味だ」
「……それで素直に俺たちが反逆者を返すと思っているのか?」
体勢を整えると、雪で凍った地面がざらりと音を立てた。
「君たち2人で我々を殺せないことぐらいわかるだろう。良くて相撃ち。君は死ねないだろう?」
見透かしたような言葉に、ごくりと息を呑む。
死なない。
死ねない。
こんなところで。
このまま。
俺は死ねない。
死んではいけないのだ。
煮えたぎった怒りをコントロールしなくては。
舌打ちをしながら銃をホルスターに仕舞い込むと、喜楽も花里から離れスキップしながら駆け寄ってくる。
その表情はいつものムカつくほどお気楽で、心がごわついた。