とある国のおとぎ話
「冬馬……」
去り際、サラは何かを言おうとして口を閉ざした。
今、サラに何かを言われたら俺はまた怒りに支配されて、自分の命を投げ捨ててでもサラを殺してしまう。
お互いに背を向けて歩き出す。
次に会う時は、どちらかが死ぬ時だ。
そして、生き残るのは俺だ。
絶対に。
「一色少佐。この借りは高いですよ。今までの減給分利子つけて返してください!」
「何故ここに来た?てめぇは仕事だろ」
いつもの冗談を低い声で遮る。
俺の怒りにも、喜楽は何も変わらない。
この男は感情が欠落してしまっているから。
人が死ぬのも、殺すのもゲーム感覚。
狂ってる。
それでも、この補佐官が俺には必要なのだ。
「補佐官の一番の仕事は上官の手助けですから」
にっこり笑う喜楽を蹴飛ばし、空を見上げた。
こんな機密機を無断で使用したこの補佐官の尻拭いをするのは俺の役目。
それでも、今日は文句の言える立場ではないことぐらい痛いほどわかっていた。
まだ、死ねない。
そう、今はまだ。