とある国のおとぎ話








「詳細は喜楽君から聞いたよ。藤崎君に津上君まで私を裏切るとはね。さすがにショックだ」



 男は抜け抜けと笑いながらチェス盤の駒を指で二つ弾く。


 弾かれた駒がコロコロと揺れている様を眺めながら思う。


 きっと、この国を動かすことはこの男にとってゲームと同じ。


 難しくなければ面白くない。


 あの二人が消えたことさえ、この男にとっては想定内だったのだろう。



「取り逃がしたことへの処罰なら謹んでお受けいたします」



「おいおい。花里までいてどうにかできたなんて思ってないさ。いくら君が天才の名を欲しいままにしていたって不可能なことはある」



 寛容である言葉を真に受けるほど、愚かではいられない。


 この男はいつも真綿で締め上げ、俺の反逆心を抑え込む。


 でも、と言いながら駒を一つ動かす。



「津上君は殺せたはずだよね?君ともあろう者が引金を引きながら殺せていないって言うのはいささか引っ掛かるな。恋人は殺せないのかな?」



「津上サラは非常に優れた軍人であったのは総統もご存じでしょう。それを言い訳にするつもりはありませんが恋人である前に反逆者である彼女に情けを与えたつもりはありません」



 サラが恋人だったことなど、俺にとっては何の価値もない。


 ふっと、彼女の涙を思い出して少し心が痛んだのはわずかな良心なのだろうか。


 そんなものは必要ないのに。


 良心があったとしても、そんなものは俺の決意を変えるにはゴミのように役立たず。


 サラを殺せなかったことは未だに許せない。


 彼女を利用しようとしたサラには死しかない。


 恋人だからと手心を加えていないことを知っているくせに、この男はいちいち俺の反応を楽しもうとする。


 本当に、嫌気がさす。



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