とある国のおとぎ話
「まぁ。この件はもういいよ。取るに足らない出来事さ。それよりね。もうそろそろかな?時間には正確な子だから」
中将クラスに続き有力な少佐が二人抜けたことさえ、取るに足りないと一蹴する。
次のお遊び何だろうか。
そこで、分厚い扉がコンコンと鈍い音を立てた。
男はやっぱりと笑い、その名を口にした。
「如月君だね。入りたまえ」
予期せぬ来訪者に、視線を扉に向ける。
扉の向こうに見える窓から、鈍い光が入り込み目を細めた。
半年ぶりに見る如月は、やっぱり何も変わらなく俺にいつものように笑いかけると総統へと向き直り、礼をとる。
「一色君。君がいない半年、如月君は大層心配していたと言うのに、こっちに戻って来てからも挨拶の一言もないって言うじゃないか?いささか、冷たすぎると思うが?」
わざとらしい厳しい声は茶目っ気に溢れていて、ほっとする。
如月の前ではいつでも優しく穏やかな総統でいてくれなければ。
彼女がなにも疑わず、この男を英雄だと信じ続けるように。
「いきなりの帰還命令の上、休む暇もなく参謀本部への異動をお決めになったのは総統だと思いますが?」
生真面目に返すと、総統は片眉を上げた。
「おや?私のせいだと言うことかい?君にも如月君にもつい仕事を任せてしまって申し訳ないとは思っているんだよ」
「総統!とんでもないです!私も一色少佐も総統のお役に立てて光栄なんです」
如月の慌てる様を優しく見つめる様は娘を見つめるように愛情に満ちたもので、そこには嘘も偽りもないように見える。
かつてはそう信じていた。
この男に花里を重ねていた。
それが違うと気付いても、ここから抜け出すことはできない。
ここにある全てが偽りであっても、ここから逃げることはしない。
彼女と共にここにあり続ける。