とある国のおとぎ話
銀の鎖に繋がれた銃をこの男の眉間に向け、引鉄を引けば良い話だ。
そうと思いながらも、この男との謁見で銃にすら触れたことはない。
執務室に入る際、取り上げられることがなかったのは、この男は知っているからだ。
俺が引鉄を引けないことを。
俺が逆らえないことを。
この男が持つ切り札は、その一枚だけで俺を破滅に追い込む。
俺を縛るのはそのたった一枚のカードだけ。
その切り札故、俺はこの男の野心に組み込まれた。
「特に用はないよ。戻ったというから、顔を見たくて呼んだだけだ」
その笑みは優しげで、その目も優しい。
親しみやすさと軽視は紙一重。
男は見事なまでにその紙一重の境を見極めている。
この部屋の主として、総統としての威厳を損なうものは何一つない。
それはこの笑みの裏で絶えず知略を繰り広げる、冷酷な色を感じさせるからだろうか。
とりとめのない分析は、この苦しみを終わらせるにはどうすれば良いかと絶えず考えるのと同じくらい無駄である。
それでも、繰り返し続けるのだ。