とある国のおとぎ話
まじない
分かれ道に行き着くと、如月は躊躇いながら口を開いた。
「ね。外はどうだった?変わりなかった?」
「ああ。特に変わりはない。」
「本当に?何かどんな些細なことでも良いの。外のことが全然入らなくて」
「如月。お前は、坂月の総統の補佐官だろ。情報なら、お前のほうが豊富だ」
「そうなんだけど。何かおかしいの。良い情報ばかりじゃないし、悪い情報も伝わって来るんだけど。でも、何かがおかしくて。それに、外に出ることがなくなって……」
「総統のスケジュールだけじゃなく、公式行事までお前が仕切るんだ。外に出る暇なんてあるか」
縋りつくような視線を撥ねつけるように言い切るが、如月は首を振る。
「視察に同行したいって言っても無理で。だから、何かが外で起こってるんじゃないかって」
「お前が総統に提案した事業が始まったばかりだ。お前が抜けられるはずがないことぐらいわかるだろう」
「……わかってる。わかってる!でも、何かが……」
「ユエ」
昔呼んでいたように下の名前を紡ぎ、彼女の額に唇を落とした。
不安がなくなるように。
寒さに、飢えに、暴動に怯え暮らしていた頃、彼女が俺に良くしていた。