とある国のおとぎ話
声が途切れ、不鮮明になっていく。
「ね、知ってた。冬馬くん、にいつも口付けしてたの、は、私の不安を消す、ため、だったの、そうすると、落ち、着いて」
如月の目を手のひらで覆い、髪をなでる。
「ご、ごめん。何だか、すごく、眠い……」
「疲れてんだ。ゆっくり休め」
そう言うと、如月は崩れ落ちるように倒れ込んだ。
「ユエ。傍にいてやるから。安心して眠れ」
俺の声が届いたのか微かに笑んで、眠りに落ちた。
彼女を抱き上げ、ベッドに寝かせると、自然と言葉が零れる。
「バカ。知ってるに決まってるだろ。ユエのことなんか全部知ってる」
ユエ、お前は知ってるか。
そうすることで、お前が不安を消していたことなんて知っている。
でも、お前は知らない。
俺も、お前の口付けで安心できたんだ。
あんな世界でも、安心できたんだ。
こんな世界が欲しかったわけじゃない。
あのままで良かったんだ。
何もかも。
あの時、より多くを望んだから。
だから、こんな風になってしまった。
俺はお前をだまし続けることでしか、守れなくなってしまった。