とある国のおとぎ話
「ユエ。どうして、お前は軍に志願なんかした」
凍えた土地で、二人で身を寄せ合って生きてきた。
寒さと、略奪に怯え、凍えながら生きてきた。
明日のことなど考えられない日々。
そんな日々をあの男は変え、それは俺とユエの未来を変えた。
国境にあった俺たちの村への侵攻、その小さな戦に終止符を打ったのが中将だったあの男。
怯える俺たちにあの男は優しく微笑み、希望の言葉を口にしたのだ。
この国から、君たちのような孤児をなくしてみせると。
豊かな国を築いてみせると。
それに夢を見たのは、ユエだった。
軍の士官学校に入ると言い出した。
坂月中将の力になりたいと。
俺は反対した。
バカな夢を見るなと。
話は平行線を辿ったままで、彼女は俺の反対を押し切って出て行った。
そう、あの時。
あの時、最後まで、彼女に裏切られたと。
俺を独り残して、行ってしまうと憎んだままだったなら。
今、こうして苦しんでいなかっただろう。
あの場所で俺はのたれ死んでいただろう。
でも、彼女は別れ際、俺を縛り続ける言葉を口にしたのだ。